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【解説】高市首相「台湾有事」答弁と中国の挑発―問われる日本の覚悟と抑止力
配信日時:2025年12月8日 7時15分 [ ID:10702]

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 中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射事件が発生した。この明白な軍事的挑発の背景には、高市早苗首相が国会答弁で「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」と明言したことへの、中国側の強い反発があるとみられる。緊迫度を増す東アジア情勢下、従来の「戦略的曖昧さ」からの脱却を示唆した首相発言は、日本の安全保障政策における分水嶺となるのか。2つの視点からこの問題を読み解く。

 事の発端は、高市首相が台湾への武力侵攻が発生し米軍が介入する事態となれば、日本の集団的自衛権行使の要件である「存立危機事態」に該当する可能性があると認めたことだ。これに対し、中国は軍事・経済両面での圧力を強化している。

 元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、今回のレーダー照射を含めた中国の行動について「日本が反撃しないことを見透かした上での行動」と指摘する。その上で、高市首相の発言は「日本も戦う意思があることを示し、結果として中国の台湾侵攻に対する抑止力を高めた」と肯定的に評価する。戦争を防ぐためには、平和を唱えるだけでなく、具体的な反撃能力と意思を示すリアリズムが不可欠だという立場だ。

 大方の見識者の考えは、首相の認識は法制上の「正論」であると分析する。国内の経済界や一部野党からは「中国を刺激し、国益を損なう」との批判も根強いが、「中国の恫喝に屈して発言を撤回すれば、『日本は脅せば屈する』という誤ったメッセージを与え、かえって戦争のリスクを高める」と警鐘を鳴らす。中国の顔色をうかがう「自主規制」は、もはや日本の安全を保障しないという現実を直視すべきだとする。

 今後の焦点は「2027年問題」だ。中国軍の建軍100年や習近平国家主席の任期が節目を迎える2027年前後に台湾有事のリスクが高まると指摘する。一方、田母神氏は、現代戦には大規模な準備期間が必要であり、現時点で即時の侵攻兆候はないとしつつ、サイバー攻撃や世論工作(認知戦)、さらには移民による「人口侵略」といった、武力を用いない「静かなる侵略」への警戒を呼びかける。

 一連の騒動が浮き彫りにしたのは、有事における邦人避難計画やシェルター整備など、国民を守るための具体的な議論の欠如だ。高市発言は、これまでタブー視されがちだった「最悪のシナリオ」を国民的議論の遡上に載せた点で意義深い。「戦争を煽る」との批判を恐れず、不都合な現実から目を背けずに備えを固めることこそが、地域の安定につながる。中国によるレーダー照射という挑発は、日本の覚悟を試すリトマス試験紙と言えるだろう。

【編集:YOMOTA】

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