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【コラム:タイの田舎で考えたこと1】龍眼の里ランプーンで見たタイ農業破綻の実態
配信日時:2022年7月21日 9時00分 [ ID:8216]

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ランプーンの小高いところに登って見渡せば、ほぼ一面がラムヤイ畑だ(撮影:そむちゃい吉田)

 今わたしはタイ北部ランプーンというところに住んでいる。ここで見聞きしたことから、タイの農家が陥っている実態や資本主義経済が行き着く先について考えるようになってしまった。農業や経済については、専門的な知識があるわけでもないのだが、今の実態を整理するだけでも問題を提議できるかと思うので、このコラムに書いてみた。

 龍眼(ロンガン)は、タイ語ではラムヤイという。普段から呼び慣れているので、以降ここではラムヤイとしていく。わたしは現在タイ北部チェンマイの隣に位置するランプーンというところに赴任している。ここは、タイの中でもラムヤイの里として昔から有名な県で、どこに行ってもラムヤイ畑が広がっているようなところだ。県内のあちらこちらにラムヤイを農家から買い取る集荷所があり、農家はそこで提示されている買取価格を見て、少しでも高い値段を付けているところへ作物を持ち込む。日本の農協のような組織はなく、集落ごとや親族ごとにグループを形成することもあるし、企業が契約栽培を依頼している農家もある。

 わたしがランプーンに引っ越して来た3月末は、ちょうどそのラムヤイの収穫が始まった頃で、普通ならアチコチにある集荷所は農家から持ち込まれるラムヤイがうず高く積まれて賑わっているはずだった。しかし今年、中国への出荷が止まったことで買取価格が暴落。かつてはキロ当たり100バーツを超えたこともあり、近年はそれも落ち着いて15〜25バーツほどだった買取額が、今年はキロ当たり10バーツ以下になっていた。このため、各農家では収穫そのものを諦めるか、自分たちで市場などで直接売る人が増えたという。丸一年、丹精込めて育てて肥料や虫除けなどに費用を投じているわけだから、キロ10バーツでは大赤字なのは、素人でもわかる。中国への出荷が止まったのは、新型コロナの影響で需要が激減したためだそうだが、中国がいい値段で買ってくれることをいいことにタイの農業界自体も、何も考えていなかった節もありありなので、半分は自業自得な側面もあるのだろう。

 しかしである。農業という人間にとって何よりも大切に守るべきものが今、こうした資本主義に踊らされて、末端の農家が濁流に翻弄されたままでいいのだろうか。買取額が前年の20バーツから半分の10バーツ以下なんて、どんな対策を取ろうがどうにもなるものでもあるまい。日本でも似たような話しを聞いたが、まだタイよりはマシな気がする。このままでは、やがて誰も作物を作ろうと思う人がいなくなる。そして、企業はより価格が安い国へ移動していく。工業界では、21世紀以降こうしたことが当たり前のこととして、かのユニクロなどもバングラディシュやウイグルでの生産に至っているのだ。農業にそれと同じ道を辿らせていいのか。むしろ最大限の敬意と価値を付加すべきではないだろうか。

 自分は中学生のころから、資本主義の世界というものに疑問を抱えながら生きて来たのだが、数十年ぶりにその不気味で陰湿な疑念が頭をもたげた気がした。そして、今こうして農業に関わるポジションにいることに何か不思議な縁を感じざるを得ないのだ。折しも日本は先進国なのなかで唯一賃金が下がり続けている。今の資本主義社会は、構造的にすでに破綻しているのではないか。近所では、すでにラムヤイを諦めて転作のために長年育てて来た木を切り出している農家が増えている。ここランプーンの農家の実態を目の当たりにして、そう思わざるを得ないのだ。

<つづく>

【執筆:そむちゃい吉田】

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