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海外旅行客も驚く、サイゼリヤのメニュー価格・「安い日本」の象徴か、徹底した合理化の勝利か
配信日時:2025年12月4日 21時30分 [ ID:10673]
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インバウンド需要の影で見える日本経済の現在地・東京都心の繁華街。円安を追い風に急増する訪日外国人客(インバウンド)で賑わうイタリアンファミリーレストラン「サイゼリヤ」の店内で、異様な光景が広がっている。
「信じられない。水よりもワインが安いなんて」。欧州から訪れた観光客が、レシートとメニューを何度も見比べながら感嘆の声を上げる。彼らのテーブルに並ぶのは、看板商品の「ミラノ風ドリア」や「プロシュート」、そしてデカンタのワインだ。
世界的なインフレと記録的な円安が進行する中、サイゼリヤの価格設定は海外旅行客にとって「衝撃」以外の何物でもない。しかし、この現象を単なる「お得な観光体験」として片付けることはできない。そこには、日本独自のデフレマインドの深層と、外食産業が直面する構造的な課題、そしてサイゼリヤという企業の特異な経営哲学が複雑に絡み合っている。
「ミラノ風ドリア」が示す購買力格差
税込300円。サイゼリヤの代名詞とも言える「ミラノ風ドリア」の価格は、現在の為替レート(1ドル=約150円換算)でわずか2ドルだ。ニューヨークやロンドンでランチをとれば、チップを含めて20ドル(約3,000円)を超えることは珍しくない。彼らにとってサイゼリヤでの食事は、自国の10分の1程度の出費で済む計算になる。
SNS上では「日本に行ったらサイゼリヤへ行け」という投稿が拡散され、一種の観光名所と化している店舗も少なくない。質の高いサービスと清潔な店内、そして極端な低価格。このギャップは、海外から見た「安いニッポン」の象徴的な事例として映る。
しかし、国内消費者に目を向ければ、この価格は「生活防衛」の最後の砦だ。実質賃金が伸び悩む中、多くの外食チェーンが原材料費高騰を理由に値上げに踏み切ったが、サイゼリヤは極力価格を据え置いてきた。この姿勢は、海外客には「驚き」を、国内客には「安心」を提供しているが、その背景にあるビジネスモデルは極めて緻密だ。
「食のSPA」モデルによるコスト制御
なぜ、サイゼリヤはこれほどの低価格を維持できるのか。その秘密は、アパレル業界でユニクロなどが確立した「製造小売り(SPA)」モデルを外食産業に持ち込んだ点にある。
同社は「バーティカル・インテグレーション(垂直統合)」を推し進め、食材の種や品種改良、現地の農場経営、加工、物流、そして店舗での提供までを自社で一貫管理している。
例えば、看板メニューのホワイトソースはオーストラリアの自社工場で製造されている。世界規模で最適な調達ルートを構築し、商社などの中間マージンを排除することで原価を極限まで抑える。さらに、店舗オペレーションの徹底的な効率化も寄与している。包丁を使わない調理工程、自動発注システム、清掃の動作一つに至るまで数値化・標準化された「科学的管理法」は、製造業のトヨタ生産方式にも通じる厳格さだ。
つまり、この低価格は単なる安売りではなく、徹底した合理化とサプライチェーン管理による「構造的な勝利」と言える。
インフレ下のジレンマと「コーディネーション」
とはいえ、逆風は強まっている。輸入食材への依存度が高い同社にとって、円安と資源高は利益を直撃する。競合他社が相次いで価格転嫁を行う中、サイゼリヤも一部メニューの改定や深夜料金の導入など、微修正を余儀なくされている。
それでも、松谷秀治社長をはじめとする経営陣がこだわるのは「日常の食事のコーディネーション」という理念だ。一品一品を安く提供し、客が複数の皿を組み合わせて楽しめる豊かさを提供する。価格を上げれば客数は減り、この「組み合わせる楽しさ」が損なわれるという危機感が根底にある。
結果として、サイゼリヤの2025年8月期。連結の通期売上高は2,567億。直近の売上高は昨対比で約114%増加。業績は上昇傾向だ。営業利益は155億。営業利益率は約6%。利益剰余金比率は約53%となっており、内部留保が多い状況。
「ガラパゴス」か、グローバルな勝ち筋か
海外旅行客が驚くこの価格設定は、日本経済が長年抱える「価格転嫁の難しさ」を浮き彫りにしている。世界標準のインフレに追随できず、企業努力で価格を抑制し続ける姿は、ある種「ガラパゴス化」した市場の極致とも言える。
しかし、サイゼリヤ自身はアジアを中心とした海外展開を加速させている。中国やシンガポールでは、現地の所得水準に合わせた価格設定で利益を上げており、日本国内の「超低価格」とは異なる収益構造を築きつつある。
訪日客の驚きは、日本のデフレの深刻さを示すシグナルであると同時に、日本企業の現場力が生み出した「品質と価格の奇跡的なバランス」への称賛でもある。
今後、日本経済が「安い国」からの脱却を図る過程で、サイゼリヤがどのような価格戦略を描くのか。それは、日本の消費者が「適正価格」とどう向き合っていくかという、より大きな経済課題の試金石となるだろう。
【編集:af】
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