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緊迫する日中関係の行方、台湾有事を巡る応酬と中国孤立の可能性(2)
配信日時:2025年12月5日 8時30分 [ ID:10681]

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――「存立危機事態」発言の真意と、外交官追放に発展した「舌戦」の代償

 高市早苗総理による「台湾有事は存立危機事態」との発言と、それに続く在大阪中国総領事による常軌を逸したソーシャルメディア投稿から約2週間。日中間の緊張は、言葉の応酬から具体的な外交・経済制裁のフェーズへと移行した。

 元記事において「後方支援」とされていた「存立危機事態」だが、法的に正確には「密接な関係にある他国(米国等)への武力攻撃により、日本の存立が脅かされる事態」を指し、これは自衛隊による「集団的自衛権の行使(武力行使)」が可能となる極めて重い局面を意味する。

 中国側がこれほどまでに過剰反応を示した背景には、日本が単なる後方支援にとどまらず、実力行使をもって台湾防衛に関与する覚悟を示したと受け止めた点にある。

 以下、最新の動向を基に、外交的・経済的影響を分析する。

 「ペルソナ・ノン・グラータ」の応酬
 事態が動いたのは11月下旬だった。日本政府は、在大阪中国総領事の投稿を「外交官の職務範囲を逸脱し、受入国の国家元首に対する脅迫行為を行った」と認定。ウィーン領事関係条約に基づき、同総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として通告し、国外退去を求めた。

 これに対し中国外交部は、「日本側が事態を政治的に歪曲している」と激しく反発。即座に対抗措置(リベンジ)として、北京の日本大使館幹部に対する国外退去処分を発表した。外交官の相互追放は、国交断絶の一歩手前とも言える深刻な事態であり、日中の外交チャンネルは現在、事務レベルを除き事実上の機能不全に陥っている。

誤解されていた「定義」と中国の焦り

 専門家は、今回の対立の核心は「言葉の定義」にあると指摘する。

 これまで日本国内の一部では、台湾有事への関与を「重要影響事態(後方支援)」の範疇で議論する向きがあった。しかし、高市総理が「存立危機事態」という言葉を明言したことで、中国軍部は「日本自衛隊が米軍と共に直接戦闘に参加する可能性」を前提とした作戦変更を余儀なくされている。

 「首を切る」という外交官にあるまじき暴言は、日本の政策転換に対する中国側の焦りと、「戦狼外交」特有の暴走が重なった結果であるとの見方が強い。しかし、この発言は国際社会において中国の特異さを際立たせる結果となり、欧米諸国のみならず、ASEAN諸国からも懸念の声が上がり始めている。

 経済安全保障への飛び火と「チャイナ・リスク」

 外交上の衝突は、直ちに経済領域へも影響を及ぼしている。

 12月に入り、中国税関当局は日本からの輸入貨物、特に半導体関連素材や工作機械に対する通関検査を恣意的に厳格化。事実上の輸出遅延が発生している。これに対し日本政府は、重要物資のサプライチェーン強靭化を加速させる方針を改めて表明し、企業に対して中国依存のリスク(チャイナ・リスク)を警告した。

 かつてのような「政経分離」はもはや成立しない。日本の経済界でも、今回の総領事の発言と中国政府の対応を見て、カントリーリスクを再評価する動きが急速に広がっている。

 今後の展望:妥協なき「冷たい平和」へ

 高市総理の支持率は、中国への毅然とした対応と、法に基づいた厳格な措置(外交官追放)への評価から堅調に推移している。

 今後の日中関係は、中国側がさらなる軍事的威圧に出るか、あるいは経済的損失を恐れて事態の沈静化を図るかに懸かっている。しかし、一度明確にされた「存立危機事態」というカードを日本が引っ込めることはあり得ず、両国関係は緊張を孕んだまま、長期的な「冷たい平和」の時代へと定着していく公算が大きい。

【編集:YOMOTA】

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