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【フィリピン】飢餓ゼロプロジェクトについての考察2・注目される社会実験
配信日時:2023年7月2日 7時00分 [ ID:9037]
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マルコス大統領が就任2年目に推し進める飢餓ゼロプロジェクトは、段階的に適応範囲を拡大して2027年までに運用システム構築を完成させるというものだ。最終的には貧困層を大幅に減らすことを目標としている。しかし、それは発展途上国に共通した課題でもあり、問題解決に取り組んでいない国はないといってもいいだろう。その中でなぜフィリピンで今回のプロジェクトが打ち出されたのだろうか。
タイでは教育制度の改革、拡充が仕事への取り組み姿勢に変化をもたらした。それは、いにしえの時代に苦労せずとも食べ物には困らないという南国の楽園だった頃からの慣習が色濃く残っていたこと。それは、仏教の教えによる他者への施しが美徳とされる文化により、富めるものが貧しいものへ施すことを美徳とする慣習に引き継がれてきた。それらは、貨幣と市場経済が流入したことで、教育の重要度が大きく増した。しかし、農家を中心にその重要性はなかなか認識されなかった。1990年までタイの地方では、小学校卒業は珍しいことではなく、途中で行かせなくなる家庭も少なくなかった。さらに北部などでは、女の子は成長すると売って、というより預けることで一時的な収入にすることが多くの家庭で行われて来た。そうした悪習は、教育制度の改革とともに薄れて、今は果ての国境の村でも必ず学校へ通うようになった。
また、初めてフィリピンを旅行した時(1991年)に目撃した建設現場では、多くの作業員の中でちゃんと働いているとひと目でわかった人は、全体の1から2割弱だった。残りの6割くらいが何もせずにいるか、他の作業員と楽しそうに話し込んでいた。そして最後の2割弱は、本当に何もせずに、中には座ったまま居眠りしているものもいた。同じころに目撃したタイの建設現場では、その比率は逆だった。ごく個人的な結果論だが、それがその後に開いたタイとフィリピンの経済発展の差となったのではないかと思っている。同じように熱帯気候の国で、のんびりとして大らかな国民性を持つ二国の間で、このような差が生まれたのも、教育改革の成功によるものではないだろうか。前に書いた通り、2000年初頭に見たタイ人の変化は、着実に経済発展の度合いへと現れている。
このように教育は、その国の人々の意識と行動を着実に変え、人々にとっても人生の選択肢を増やせることに繋がっている。しかし、その効果が現れるまでには時間がかかる。タイで義務教育が9年間になったのは、1980年代のこと。その効果の一つが、わたしが2000年頃に目撃した仕事に対する姿勢の変化なのだとしたら、丸20年かかったことになる。即効的に効果が求められた場合には、大いに弱点にもなり、予算面ではその期間何年も見返りのないまま出資し続けることになる。このために、多くのボランティア団体は資金集めのために、建物や物品の寄贈といった目に見える形のプロジェクトを中心にせざる得ないのが実情であり、高い教育レベルを持つ日本人が待つ教育に対する理解度もこの程度なのが実態だ。
今回のプロジェクトは、そうした教育面の要因を切り離したところで企画されている。つまり、学歴や教養などに関係なくその効果が得られるように配慮されているのだ。現金のバラマキでは本当に必要なものが購入されるとは限らない。これは、フィリピンだからという問題ではなく、人であれば急に入った収入は、泡銭と化して何も問題の解決にならない可能性が高く、恐らくそれは日本であっても同じ現象が起きるだろう。必要な食料品などをデジタルクーポンとして支給する。これは、支給家庭の教育レベルや生活慣習に左右されることがないよう現金を排除したものでもある。そして、何が支給されたかをデータとして集積して、各家庭ごとにコンサルティングをする点も注目に値する。今回のプロジェクトも教育と同様に問題解決には、多くの時間がかかることを見越した上で立案されている。
昔のフィリピンのままだったら、いくら制度や理念が優秀でも、それを管理運営することは困難だっただろう。しかし、世界的な技術革新がそれを可能にしつつあし、それを支えるべき人材の育成と確保も教育制度の改変とともに底上げされ、拡充して来ている。その資金面でプロジェクトを支えることになるのが、日本を中心に運営されているアジア開発銀行だ。また、政府は法施行から2年半以内に飢餓率を施行時と比較して25%、5年以内にさらに25%減少させ、10年以内に国内から飢餓を撲滅することを政府の義務と規定したのも、教育制度が拡充でき、人材が育成できたからこそだろう。
こうした環境が揃っている中で、国が、大統領が、積極的に押し進めるからこそ、今回のプロジェクトには世界中から大きな期待が寄せられ、注目を集めている社会実験として大きな意義があるだろう。
【執筆:そむちゃい吉田】
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