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【タイ】景気が悪いのにバーツが高い理由
配信日時:2026年1月5日 11時00分 [ ID:10784]
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タイを旅行した人にとっては、にわかに信じがたいかもしれないが、タイ経済はいま不調にある。以前から「不景気」と言われがちな国ではあるものの、ショッピングセンターには人が集まり、街の表情からは実感しにくい面もあった。しかし現在は、回復の足取りを欠いたまま停滞しているのが実情だ。観光業は完全には戻らず、国内消費も力強さを欠く。それにもかかわらず、通貨バーツは高い水準を維持しており、「景気の実感」と「通貨の動き」がかみ合わない状態が続いている。
象徴的なのが為替相場である。タイの通貨バーツは、2024年には1ドル=35〜36バーツ前後で推移していたが、2025年末にかけて32〜33バーツ台まで上昇した。対米ドルで見ると、約8〜10%のバーツ高にあたる。2026年に入った現在でも、この高い水準は大きく崩れていない。
一方で、実体経済は決して好調とは言えない。経済成長率は2%に届かず、家計債務は高止まりしたままだ。輸出産業や農業も競争力を欠き、国内に力強さは乏しい。なかでも影響が大きいのが観光業である。
タイ観光の柱だった中国人観光客は、明確に減少している。2024年には約670万人まで回復していたが、2025年には約450万〜460万人程度に落ち込んだとみられている。コロナ前には年間1000万人を超えていたことを考えると、回復の遅れは顕著だ。
背景には、中国国内の景気減速に加え、「治安への不安」がある。ミャンマーやカンボジアとの国境地帯で問題となってきた詐欺事件や犯罪拠点の存在、さらには国境をめぐる緊張が、中国のSNSなどで一体となって拡散されている。その結果、タイ全体が「危ない国」という印象で語られ、旅行先として敬遠されやすくなっている。
こうした中で注目されているのが、金(ゴールド)取引の急増だ。タイは東南アジア有数の金取引拠点で、2024年には金の輸入量が約199トン、輸出量が約114トンに達した。2025年に入ってからも、未加工の金を含む取引は拡大傾向にある。
金価格が上昇する局面では、海外取引で得たドルをバーツに換える動きが強まる。これが、景気とは関係なくバーツを押し上げる要因の一つになっている。こうした影響を抑えるため、タイ当局は金取引に対する管理強化や課税の見直しを検討し始めている。通貨市場への影響が無視できなくなってきたためだ。
米誌「Asia Times」などが指摘するように、さらに見逃せないのが、国境地帯に存在するとされる詐欺拠点から生まれた資金の流れである。これらの資金が、暗号資産や金取引、不動産などを通じて、実体経済とは切り離された形でタイ国内に流入している可能性があるという。こうした不透明な資金がバーツに換えられれば、景気の停滞とは裏腹に通貨だけが強含む構図が生まれる。
この文脈で注目されたのが、タイ軍による国境地帯での空爆である。公式には治安対策とされているが、現地事情に詳しい関係者の間では、詐欺拠点を物理的に破壊し、犯罪資金の流れを断つ狙いがあったのではないか、という見方も出ている。軍事行動と治安、そして金融の問題が、実は同じ線上にあるという指摘だ。
皮肉なことに、こうして形成されたバーツ高は、観光や輸出といった本来の成長源にとって逆風となる。外国人観光客にとってタイは割高に映り、中国人観光客の回復をさらに遅らせる。輸出企業も価格競争力を失い、景気は一層冷え込みやすくなる。
では、今年、この悪循環は正常に戻るのだろうか。一定の兆しはある。金取引や資金洗浄への監視強化、詐欺拠点への圧力が続けば、不透明な資金の流れは細る可能性がある。治安イメージが改善すれば、観光も徐々に回復する余地はあるだろう。
ただし、信頼の回復には時間がかかる。観光客は数字以上に「安心できるかどうか」で行き先を選ぶ。通貨高も自然に解消されるとは限らない。タイ経済が本当に正常な循環を取り戻せるかどうかは、犯罪資金の遮断、通貨の歪みの是正、そして観光への信頼回復を同時に進められるかにかかっている。
バーツ高は経済の強さの表れではなく、むしろ構造的な歪みの結果である。その歪みを立て直せるかどうかが、今年タイで問われることになるだろう。
【編集:そむちゃい吉田】
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