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【コラム:タイの田舎で考えたこと2】資本主義経済に翻弄される農民たち
配信日時:2022年7月26日 9時00分 [ ID:8221]

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王室プロジェクトでは日本きゅうりも栽培していた(そむちゃい吉田撮影)

 今わたしはタイ北部ランプーンというところに住んでいる。そこで見聞きしたことから、タイの農家が陥っている実態や資本主義経済が行き着く先について考えるようになってしまった。こうした農業や経済については、専門的な知識があるわけでもないのだが、今の実態を整理するだけでも問題を定義できるかと思うので、このコラムに書いてみた。(2/3回目)

 前回は、今住んでいる近隣農家の状況について書いたが、今回はもう少し範囲を広げみてみたい。日本には、農協という組織が良くも悪くも農家を支えて来た。今に至ってやっと農業法人に取り組んでいるところがあると聞く。この辺は、日本を離れて20数年経っているので、自分には実態がわからないので、具体的な比較や良し悪しの考察はできない。このタイでは日本のように全国を管轄する農協的な組織はない。一応、形としては農水省管轄の組織あるらしいが、現場で話の遡上にあがったことがないし、具体的に何をやっているかも見えてこない。

 現実として、タイの農家は家族が中心になっている。そこから親族、地域と少し範囲を広げて、住んでいる集落や同じ作物を作る仲間のつながりの中で、何を作るか、どの作物の買取価格が高くて、効率がいいのか。などの情報が巡っている。日本と同じような高齢化社会であるタイだが、近年は若い農民の姿を見る。彼らはそれぞれ大学で学んだ人も少なくないこともあってか、農薬の危険性も広く知れ渡ってきているようだし、肥料にも化学肥料はなるべく使わないようになってきたようだ。

 それぞれ親族や集落のネットワークでは、売り先の情報もやり取りされており、どこの誰のところに中国人バイヤーが来て、多額のデポジット(契約金)を置いていった。などの話があっという間に伝わる。ネット社会になる前から、タイには口コミによるネットワークが広く存在していたために、今でもそれが消えずに残っているのだ。

 タイの農家が何を作るかを決める際に重要なのは、まずいくらで売れるかだ。市場価格が高くても、仲買に売る価格が安い作物も少なくない。もちろん、手間がかからないことも考慮するが、何よりもいくらで売れるのかが大事になっている。近年は中国人バイヤーがタイの農業でも暗躍しているが、彼らは始め高く買い取ることを約束する。場合によっては、何年以上やってくれるなら、契約金としてン十万バーツを置いて行き、半ば強引に契約をさせてしまう。実は、そこに罠があって、1、2年は高い値段で買い取るものの、数年経つと一気に値段を下げてくるのだ。それでも何年間と契約で縛られている農家は作らざるを得ない。安くても買い取ればまだ良い方で、中には時期が来ても一向に買取りに来ず、連絡も取れなくなってしまう輩もいるのだという。そうなってしまったら、農家は自分で近隣の市場に売り先を探すか、バンコク郊外のタラートタイという大規模な卸売市場に持ち込むしかない。この場合、身内や知り合いに市場に入る知識があればいいが、そうでない場合は、本当に途方にくれてしまうようだ。こうしたリスクヘッジのためにも、タイ人農家が口コミネットワークを大事にしている側面もある。

 また、タイの企業が契約栽培を持ちかけてくることも多い。この場合は買取額は安いが、種子から肥料が無料で支給される上に、集荷にも来てくれる。このため、タイ北部の山岳地帯ではポテトチップスのためのジャガイモをはじめ、スナック原料となる野菜の生産が多い。こうした情報もやはり口コミによって伝達されている。そして、重要になってくるのが地区長だ。特に山岳部では、一軒の農家が持っている畑は大きくない。周辺の地区長が企業との間に入って彼らを取りまとめたり、作物を振り分けたりする。

 タイでは、国による保護や補償政策もないに等しく、かつてインラック政権時に価格安定のために米の買取をしたが、大量に余らせて財政に大きな負担となってしまった悪例もある。つまり、農家は自分たちで生産計画を立てなくてはならないにも関わらず、頼れるのは口コミという状態がいまだに続いているのだ。ネットを活用している向きもあるにはあるらしいが、そこにはタイ人であっても有象無象の輩が手ぐすねを引いて持っている状態だ。また、こうした問題はかの王室プロジェクトが管轄している農園でも例外ではない。一般の農家よりも予算を持ち、農業博士が監督してるため、作物の品質は非常にいいのだが、安定した売り先という面では苦労が絶えないという。

つづく


【執筆:そむちゃい吉田】

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