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【コラム:タイの田舎で考えたこと3】タイ日合資の企業が示してくれた目指すべき農業のあり方
配信日時:2022年7月29日 11時00分 [ ID:8224]

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急斜面に開かれた畑ではキャベツが栽培されていた(そむちゃい吉田撮影)

 今わたしはタイ北部ランプーンというところに住んでいる。そこで見聞きしたことから、タイの農家が陥っている実態や資本主義経済が行き着く先について考えるようになってしまった。こうした農業や経済については、専門的な知識があるわけでもないのだが、今の実態を整理するだけでも問題を定義できるかと思うので、このコラムをお読みいただきたい。(3/3回目)

 わたしは、中学生の頃から資本主義社会というものに疑念を抱いて来たまま今に至っている。そのため、投資家とか株や為替といったマネーゲームについては、常に懐疑的な見方をしてしまっている。いくら発展した社会とはいえ、いわゆる不労所得というものは生物としての人間にとっては、果たして間違ってはいないのか。こうした疑問を常に抱いている。今回、タイ北部に移り住み、第1次産業の実態に間近に触れたことで、その疑念は解決するどころか、さらにその度合いを深めている。

 そんなことを考えながら今回の取材を進めていた中で、タイ人と日本人が合資で始めたという会社の方と出会い、いろいろな話を聞かせてもらえた。というより、彼らに出会ったことが本コラムを書くきっかけになったのだが、具体的なことはオフレコにして欲しいとのことで、了解を得たその概要は次のようになる。

 まず先に利益が見込める作物は今何があるのか、安定した需要があるのか、タイ国内やアセアン地域、そして日本でのマーケット規模がどの程度あるのかなどを、事前に徹底的にリサーチする。そして、いくつかの作物をピックアップして、適していると思われる地域の農家などを巡って、生産の打診をしているのだという。企業としては、スタートアップしたばかりで何も実績がありませんので。と謙虚な姿勢を崩さなかった彼らだが、農家が常に腐心している安定して利益が確保された販売ルートを彼らが整えているわけで、居合わせてもらった交渉の席では、農家の人たちは前のめりな姿勢で話を聞いていた。

 「自分たちは農業に関してまったくの素人なんです。でも、食べ物を作る人たちが苦しまなきゃいけないということに対して、何かできるんじゃないかとの思いでスタートしました。スタートアップなので、大変なことばかりですが、今はこうして農家の人たちと話すことが何よりも楽しいです。彼らに教わりながら、自分たちができることを見つけていこうと思っています。幸いアセアンや日本に繋がるルートがあるので、手探りでも少しずつ進んで行けたらと思ってます。」別れ際、彼らはこう話してくれた。

 企業が自らの利益を追求するだけではなく、生産者やその地域、取引先、そしてもちろん社員と全てに利益が行き渡るような事業を現代ではソーシャルビジネスと呼んでいる。今回会った彼らもそこを目指していると言っていたのだが、基本的にはかつての日本企業がやっていたこと、そのものではないのかとわたしには思えたのだ。そして、現代としてそこに加味するべきは、持続可能にするために安全性や周辺環境にも配慮して構築する。彼らがやろうとしている具体的なことを書けないのがもどかしい気もするが、わたしにとっては、今回出会った彼らに日本人が関わっていたことが嬉しかった。日本の将来を考えるとなかなか希望を見出すのが難しい状況の中で、彼らには成功して欲しいと思うし、今後もその動向を見守っていこうと思う。

 映画「釣りバカ日記」の中でスーさんこと鈴木建設の鈴木一郎社長が「わたしは社員数千人の生活を守らなくちゃいけないんだ」と言っている場面が何度となく出てくる。それは、かつて日本の会社が株主のためではなく、社員のために存在していたということを物語るひと言だ。だからこそ、終身雇用性といったことも成り立っていたわけだが、今やそうした価値観は完全に失われてしまっている。企業が利益を追求するのは当然のことだとしても、それが何のためなのか。パンデミックと戦争という世界的な混乱の中、立ち止まることを余儀なくされた今だからこそ、もう一度よく考えるべきではないだろうか。自分たちが食べるものを作ってくれている人々が、困窮するような世界は間違っているのではないか。食前に「いただきます」と手を合わせる人なら、お分かりいただけるのではないだろうか。

【執筆:そむちゃい吉田】

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