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【タイの裏事情】タイで売春合法化が検討される理由(1) 〜性産業は人権問題か経済問題か
配信日時:2023年3月26日 17時00分 [ ID:8777]

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タイの性風俗産業(イメージ)

 タイでは現在、1996年に制定された売春防止法に代わり、売春を合法とする新しい法案が協議されている。そこで協議されているのは、性産業に従事し売春をしている人々の人権を守ることだ。世界に目を向ければ、人権を重視した西欧諸国を中心に売春が合法化されている国は少なくない。タイもそれらの国に倣って、現実に即した法律を制定し彼ら彼女らの権利を保護しようというものだ。また、これらが議題に上がったのは、国家として地下に潜ってしまいがちなこの大きな経済活動を顕在化することで、新たな課税の対象とする目的がある。どの国でも個人の人権を保護云々という建前の裏側には、こうした利権や税収という隠された利害が一致してこそ、初めてこの議論が成立し、落とし所が見えてきているようだ。

 現在、タイの法律では売春自体は違法とはされていない。処罰の対象は、売春宿の経営、売春の斡旋、公共の場所での迷惑行為をした者に対して、最高で6年の懲役が課される。また仏教国でもあるタイでは、不浄で不貞なこととして忌み嫌われてもいる。しかし、バンコク 、パタヤ、プーケットなどにはゴーゴーバーやマッサージパーラーが乱立し、世界中からの観光客が群がっている。タイ警察や各自治体は、常に違法な管理売春は行われていないと発表している。店の経営者達も、場所は提供しているが、違法な行為には加担していない。大人の男と女が意気投合した結果の行為だと、見え見えの定型文を毎度のように発している。

 国連のエイズ対策機関による2014年の報告書では、タイには 123,530人のセックスワーカーがいると推定されていたが、擁護団体はその数をその2倍以上と見積もっており、近隣のミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムなどからの数万人の移民が含まれていると述べている。そして、タイ王立警察によると、昨年、24,000人以上がセックスワーク関連の犯罪で逮捕、起訴、罰金を科された。

 違法とされる売春がもたらす経済規模は大きく、「性産業は(国に)莫大な収入をもたらしますが、(セックスワーカーを)保護するメカニズムはありません」とタイに本拠を置くセックスワーカーの支援組織であるService Workers in Groupの責任者、Surang Janyam 氏は語る。売春法は廃止されるべきであり、セックスワーカーが労働法の下で保護されるようにすべきだと述べている。

 人権という側面から見ると合法化には、売春をする、あるいはせざる得ない人々にとって大きなメリットがある。現実として性産業に従事して売春での収入が生活の糧となっているものの、現在の法律は、こうしたセックスワーカーを保護するのにほとんど役に立っておらず、セックスワーカーを繰り返し逮捕し、罰金を科すことでさらに貧困に追い込んでいるのだ。その一方で、年間の収益は 64億米ドル (2015年) に相当すると推定される。

 こうした現実を前にしても仏教国でもあるタイでは現在、建前として性産業を認めない考え方は根強い。しかし、タイの歴史においてはアユタヤ王朝(1351-1767)時代から1960年代に至るまで合法的な職業だったことはあまり知られていない。

(つづく・3月27日17時配信予定)

【執筆:そむちゃい吉田】

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