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【タイの裏事情】タイで売春合法化が検討される理由(3) 〜性産業は人権問題か経済問題か
配信日時:2023年3月28日 17時00分 [ ID:8779]

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タイの性風俗産業(イメージ)

 タイでは現在、1996年に制定された売春防止法に代わり、売春を合法とする新しい法案が協議されている。そこで協議されているのは、性産業に従事し売春をしている人々の人権を守ること。世界に目を向ければ、人権を重視した西欧諸国を中心に売春が合法化されている国は少なくない。タイもそれらの国に倣って、現実に即した法律を制定し彼ら彼女らの権利を保護しようというものだ。

 バービヤ、ゴーゴーバー、カラオケ、ソープランドと、好むと好まざるとに関わらず、タイの性産業を目当てに世界中から観光客が訪れている。これは現実だ。そして、そこで春を売る人々は男女を問わず、法的な保護からこぼれ落ちてしまっている。それどころか、取り締まりという名で時々行われるカツアゲによって、より困窮した立場へと突き落とされ、また同じ職場へと戻っていく。これも、現実に行われている悪循環だ。

 日本や西欧諸国には最低限の生活保護を目的とした法律がある。しかし、タイにはまだそういったセイフティーネットというべき法律は未整備のままだ。多くの場合生活に困窮したものは、男性ならタクシーやバイクタクシー運転手に。女性が収入を求めるにはこうした性産業に身を委ねることになる。

 しかし、産業と言われる通りここで生み出されている経済利益は、年間64億米ドル (2015年) にものぼると推定される。現在でも売春行為自体は違法では無いことは先にも書いた通りだ。そして、現在こうしたことも含めて新しい法案を起草すべく協議されているのは、こうした性産業に従事している人々の人権や法的な福祉を受ける権利を保護する目的としたものだ。

 具体的には、20歳以上の成年者が自ら行う性的サービスは、違法で無いとすること。また、従事するものは公的福祉や補償を受ける権利を有すること。しかし、健康診断を常に受け、性病や感染症などに罹っていないことを確認することを義務付ける。違法とされる行為については、20歳に満たないものとの行為は、同意の有無に関わらず違法とすること。売春行為の強要や斡旋は、人身売買禁止法により違法とされること。

 売春宿の運営者は、教育機関や礼拝所の近くではなく、特定の地域でのみ運営を許可される。サービス提供者は従業員として一般労働者と同様に保護するための条件に違反しないことが求められる。また、20歳未満のものを性的サービスに従事させることは禁止。またその売春を斡旋および誘引した者も刑事罰の対象となること。20歳未満の未成年者の保護者は、拘束、虐待、拷問、または脅迫し、売春を強要すると罰せられること。

 今年になってからタイでは、上記のような新しい法案が討議されてきている。次のステップは、この新しい売春法によって影響を受ける他の法律を調査し、国のイメージの維持を含む社会的および経済的影響を解決すること。また、委員会では各国の売春法を研究し、ニュージーランドの法律をモデルとして採用したという。ニュージーランドでは、政府が2003年にセックスワークを完全に非犯罪化し、18歳以上の市民が性的サービスを売買することを合法化した。

 様々な思惑を含んだこの法案は、順調にいけば今年8月頃には新政府に提出される予定だという。今後も推移を注視していきたい。

【執筆:そむちゃい吉田】

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