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インドの対米通商問題、インフレ懸念をいかに見るか? ーHSBC投信
配信日時:2018年7月1日 3時15分 [ ID:5132]

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インドのイメージ

 2018年6月29日、HSBC投信は「トピックス:インドの対米通商問題、インフレ懸念をいかに見るか?」とのタイトルでレポートを発信した。

 アジア新興国及び各国市場は、米ドル資金調達コストの上昇、国・市場ごとに違いが顕著な景気動向、深刻化する世界貿易摩擦、原油価格の高騰など、厳しさを増す外部環境に直面している。2018年も折り返し地点を過ぎようとする今、インドがダイナミクスの変化の中でどのような位置にあるのかを振り返り、分析するには良いタイミングだろう。

貿易摩擦

 インドは、米国による鉄鋼とアルミニウムへの追加関税措置によって始まった主要国間の貿易摩擦に飲み込まれている。米国の輸入制限によるインドへの影響は推計2億4100万米ドル相当に上る。インド政府は報復措置として米国から輸入する農産品、鉄鋼製品に対する関税の引き上げを発表した。インドの追加関税は3月4日から実施される。

 インド財務省が6月20日付通達で発表した関税引き上げは、中国と欧州連合(EU)によるそれぞれの対米報復措置と足並みを揃えたものだ。

 インドの追加関税の対象となる米国からの輸入品には、一部の農産品、エビ、リンゴ、クルミ、ホウ酸、診断用試薬、それに一部の鉄鋼製品が含まれる。

 報復措置発動予定の8月までは時間があるため、米印間で何らかの交渉が行われる余地が残されているとみている。実際、米通商代表部(USTR)の担当者が近く訪印する予定だという。追加関税が話し合われることは間違いないだろう。

 USTRとの交渉の結果がどうであれ、報復対象の米国産品の総額は取るに足らない規模(インドのGDPの0.01%以下)に過ぎず、インド経済への直接的な影響は無視してもよい。しかし、米印間交渉で合意が成立せず、インドが報復に踏み切れば、両国間の貿易を巡る緊張がさらにエスカレートするのは必至だ。世界貿易や世界経済の成長の先行きについてすでに懸念が高まっている中で、企業マインドや投資判断に影響が出れば、今年後半のインド経済にとってリスクとなる可能性がある。

インフレ懸念

 インド準備銀行(中央銀行)は6月上旬、政策金利を4年ぶりに引き上げた。中央銀行は理由として、コア・インフレ率上昇、インフレ期待の高まり、投入コスト(原材料・燃料費)の上昇圧力を強めてきた石油・商品の価格上昇への対応と、国内景気の持続的回復の促進を挙げた。

 利上げのタイミングは市場予想より若干早く、中央銀行が先手を打つ形となったが、利上げそのものは予想されていたため、株式と債券の両市場とも特に反応しなかった。

 しかし、利上げは時期尚早だったという批判が一部で上がっている。批判派は、コア・インフレ率の上昇は、高額紙幣廃止に伴う前年の物価上昇率の原指数低下によるベース効果で歪められていると主張する。高額紙幣廃止後のディスインフレ・ペースが過去数年と比べてもかなり速いのは事実で、調整後のコア・インフレ率は年率換算で3%と相対的に低い。

 さらに、最近数カ月、原材料・燃料費の上昇などの一過性要因がコア・インフレ率を押し上げきた。当社は現時点では、(賃金水準、信用サイクル、設備稼働率の改善による)成長への弾みはまだ始まったばかりで、企業が持続的な価格決定力を回復するまでには至っていないと判断している。

 実質金利がすでに相対的に高くなり、融資条件がより厳しくなっている現状を考慮すると、積極的な金融引き締めは正当化されないと考える。事実、政策金利の引き上げがなくても市場金利や貸出金利は上昇基調にあった。

 原油価格の高騰がさらに続けば、当社のインド経済見通しは修正を余儀なくされる可能性があるが、現在の基本シナリオにはそれは含まれていない。いずれにしても、石油はインドの最大輸入品目であり、原油価格の上昇はインフレ上昇のみならず、インドの巨額な貿易赤字のさらなる悪化を招く脅威になることは確かであり、注視すべきだろう。


【編集:PK】

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