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白石あづさ氏『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』を文藝春秋から発刊
配信日時:2019年6月21日 9時15分 [ ID:5744]

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世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(白石あづさ著、文藝春秋)

 2019年6月20日、白石あづさ氏は、『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』を文藝春秋から発刊した。

 国民の約80%超がヒンドゥー教徒であるインドにおいて、半世紀前までは数十万人しかいなかったマイノリティの仏教徒を一億五千万人にまで増やした人が日本人僧侶であることをいったいどれだけの人が知っているだろうか?

 今インドでは、最底辺のカーストにすら入れない不可触民(三千年に渡り「触ると穢れる」と差別されてきた)の人々が、差別のない暮らしを求めて続々と仏教に改宗しているという。その立役者の名は佐々井秀嶺(ささい・しゅうれい)。何度も自殺未遂を繰り返しては色に溺れるなど、波瀾万丈の人生を送ってきたその男は「武士道」を精神的支柱にして仏教復興に命を賭け、他宗教からのプレッシャーや政府の妨害にもめげず、最下層の人々に生きる希望を与えるため、半世紀もの間、闘ってきた。
 
「みなさん、私は小さな坊主である。インド全仏教の会長に選んでいただいたのは、私が普段から真面目であり、強固な精神の持ち主だとみなさんが考えてくれたからであろう。金集めも経営もできないが、これからも小さな坊主として命がけで差別や貧困と闘っていく所存である」

 百万人が仏教に改宗する「大改宗式」で佐々井の登場を今か今かと待ち構えていた聴衆を前に満身創痍の佐々井が高らかに宣言する場面から始まる本書『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(白石あづさ著、文藝春秋)は、女性ライターが足かけ五年にわたって取材した密着同行記である。

 家族との縁を断ち、文字通り出家して、出身地の岡山から流れ流されて高尾山、そしてタイへ。タイから帰国する前夜に龍樹菩薩のお告げを受けてからはインド・ナグプール(デカン高原の中心)を安住の地と定め、庶民からの「寄進」で生活する日々。結婚や就職、詐欺被害など、「そんなことをお坊さんに相談する! ?」と驚くような悩みを抱えた庶民たちが、朝早くから佐々井のもとに駆け込んでくる。他にも、秘密警察との対決、ヒンドゥー教過激派の陰謀渦巻く仏教大会であわや大惨事となる場面など、密着しなければ見えてこない佐々井の知られざる「リアル生活」が読みどころ。インド政府による核実験への抗議運動や、仏教の聖地・ブッダガヤの奪還闘争のため国会前で座り込みを決行する姿などは「闘う仏僧」と名高い佐々井の真骨頂である。現代の日本人には想像も及ばない規格外の僧侶の姿をこれでもかと見せつけられ、あっけにとられるばかりである。

 84歳の老体に鞭を打って、困っている人々のために身を賭して闘う佐々井の姿は、現代のモーセか、はたまたインドの次郎長か。人々のために生きるとはどういうことか、考えさせられるだけでなく、生ける「伝説」と同時代に生きられることを幸福に思える一冊だ。

【編集:MS】

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